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質問紙法の質問と選択肢について

今回は、ちょっと予告から外れますが、質問紙法のお話を書いてみたいと思います。質問紙法というのは心理学の研究法の一つで、巷で言うアンケートです。心理学は、どの人にもなるべく当てはまる普遍的な性質を見極めようとする学問なので、統計処理できるデータを集めることが出来れば研究や考察は進めるのが容易になります。特に最近はPCが発達してデータマイニングが簡便にできるようになってきたので、学部学生にとっても手をつけやすい研究方法として先ずそれを修めるよう指導されます。それで学生は四年間のうちに何回か自分で質問紙を作り、お互いそれに答えて統計解析の練習をします。うちの大学ではそのような学生が一つの学年で何十人といるので、それはもううんざりするほどのアンケートに答えるわけです。心を話題にしているので、結構精神的なダメージの来る質問文もあるし、ほんとは隠していたかったことも答えないといけない状況に追い込まれたりしてなかなか手強いのですが心理学徒としては避けられません。

そんな感じでいろいろな質問文とその選択肢に出会います。例えばQ. 今の両親に生まれてよかった。A 1. 全くそう思わない 2. あまりそう思わない 3. どちらとも言えない 4. まあそう思う 5. とてもそう思う などとして1から5のどれかに丸を付けてもらう。一つの質問紙にこんな感じのいろいろな質問文が50問前後あります。研究したいものにもよるのですが、「いや私はそんな考え方をしたことはないんだが…」とか「そもそもそんな場面に出会ったことがないのだが…」と、なんとも答えようのないものにも頻繁に出会います。多くの質問紙の選択肢は1から5までの5件法で、真ん中の3は「どちらともいえない」となっています。何とも答えようのない質問に、この「3. どちらともいえない」に印をしたものかどうか、私はいつも困ってしまうのです。これは、質問の建て方がおかしくはないかと。もちろん学生ですから色々至らないところはあるでしょうが、私は既存の標準化された尺度の質問紙の質問にもこの手の困難を感じる質問文にたまに出会うのです。どうも納得できない。例えば「PDI短縮版」という被害妄想傾向を測る尺度の質問紙があって、そのなかに「Q. あなたは自分の考えが異質なものに感じられますか」という質問があり、これの選択肢が何件法なのかちょっと手元の資料では確認できませんが「どちらともいえない」はあったようです。それでこれがよくあるタイプの選択肢の選ばせ方だったとして、1に「全くそう思わない」を準備し、5に「とてもそう思う」を準備していたとして、 3. どちらともいえないと答えた人は、1と5の中間と評価してしかるべき性質を持っていると言ってしまっていいのでしょうか。私個人がこの質問に出会って先ず考えることは、「異質というのはどの程度の違いの話をしているのか、この質問ではわからないなあ。人の意見には賛成することもあれば反対することもあるしわからないと保留することだってある。こんな場合は3のどちらとも言えないに印をするといいのだろうか。それはでも1を選んだ人より私は5に近いということにされてしまうのではないか。そうだとすると心外だけどなあ」と。

質問紙の質問と選択肢の準備についてはもちろん研究されています。項目応答理論とか嘘を答えたかもしれない係数とか。でも今回は私の趣味で敢てそれを探すことはせず、車輪を二度発明する意気込みで考えてみて以下のようになりました。

まず(今回話題にしているような)質問紙の回答は統計解析のために作成するものである。各質問は「変数」として数学で用意され、選んでもらった選択肢の番号はその変数に代入する「値」である。ある変数に代入する値は定量的なバリエーションを持つサンプルでなければならず、定性的に違うデータを混ぜてしまうと計算は成り立たない。例えば「周波数」という変数に20Hzと34Hzを代入して結果を比較するのはよいが、20Hzと「隅田川」を代入して計算してもその結果を比較する意味はない。20Hzと「隅田川」は値の「質」が違うからである。このように、質問文に準備した選択肢を1から5(5件法であれば)までの数直線に並べて選んでもらうのであれば、その選択肢たちはどれも質はおなじで定量的な違いのみである少なくとも順序尺度、できれば間隔尺度以上の統計的厳密さの選択肢を並べなければならない。

統計解析では業界標準となっているSPSSというデータマイニングソフトがあります。解析結果を表やグラフとして書かせる時のために文章を入力することもできますが、計算自体は数字同士でやる他はないわけです。というか数字で統計処理したいから選択肢に番号を振っておいて、その数字を入力するのです。そして計算させる。それならば、集計したいある変数の値には質的には同じデータを入力しないとうまくいかない。そして質的に違う答えなのに数直線に並べてしまってそれに数字を割り振って入力したら、あとはもう誰も気がつくことはできません。「卒論に一つ尺度でも作ってやろうか」というそこのあなた! 答えに準備した選択肢たちを1,2,3,4,5と並べようとしているそこのあなた! その選択肢たちは、仲間はずれの文言が混ざっていませんか?